すでに5回も観ている星組公演ですが、なぜこんなにも感想をお届けするのが遅くなったかというと、礼真琴さんのラスト公演だから絶賛したかったのにそうはならなかったからです。
トップオブトップ礼真琴の退団公演感想
「阿修羅城の瞳」全体雑感
とはいえ、『阿修羅城の瞳』はふつーに面白かったですよ。
暗くておどろおどろしい雰囲気なので宝塚らしくはない作品ではあるけれど、本家(新感染)から血みどろのグロさやダラダラと続くギャグ部分をごっそり削ぎ落としたジェネリック版が宝塚ファンにはありがたい演出。
人間(礼)と阿修羅(暁)の恋模様が思いのほかしっかり描かれていたのも、鬼御門(極美)が、鬼退治から足を洗った出門に裏切られたと誤解し執着する様子も本家ほど生々しくなく、 ”こじらせ野郎” 程度に収めてくれていたのもさすが小柳先生。
登場人物みんなキャラが濃くて暑苦しいのも星組に合っていて、組子たちもイキイキ楽しそうにやっていて良い感じ。
キャストごと感想
なかでも注目は髪型のインパクトNo.1の極美慎さん。
これが星組ラストということもあり気合充分。悪役としての迫力、礼さんと互角に戦う立ち回りも見事で頼もしい限り。
ぶっ飛んだお姫様を思い切りよくやって笑いをかっさらっているのは次期トップ娘役に内定している詩ちづるさん。新公ではヒロインのつばきを色っぽく演じていて、あらためて芸達者な人だなと。
ちょっぴり”小野田っち” が入っている気がしないひろ香祐さんはみごとな殺陣で身体能力の高さを見せつけていました。笑い担当のはずが意外にも女装姿が板についている輝咲玲央さん。そしていまさら子役なんてと残念に思っていた瑠璃花夏さんですが、これまでの豊富な経験が、つかみどころのない笑死(えみし)の役作りに生かされていました。
路線の男役に役が少ないのは残念でなりませんが、天飛華音さん&稀惺かずとさんはすぐに殺されるヘタレキャラなのに無駄にイケメンという立ち位置が面白かったです。
そしてなんといっても闇のつばきを演じた暁千星さんが素晴らしかったのなんのって。
前半はとにかく可愛らしくていじらしくて色っぽくて、誰もがほおっておけない魅力たっぶりの女子を、後半は劇場の空気を支配するほどの貫禄ある阿修羅に変身。とくに銀橋ソロは圧巻!正直、2番手最後に女役なんてと不服でしたが、いやいや、暁さんのつばきを見られてよかったですし、本人にとっても舞台人としての幅が広がった役のように思います。
礼真琴さんに関してはカンペキすぎてもう何も言うことはありません。
殺陣の俊敏さ、セリフの滑舌の良さ、歌の説得力、そして緩急自在の芝居…。こんなスキルの高いジェンヌはもう現れないだろうな。そんな稀有な人を初舞台から退団公演まで見届けられたことが私の自慢です。
だからこそ退団公演への期待が大きすぎたといえばそれまでですが、劇団演出家によるオリジナル作品だと大コケするリスクがあるのは事実で、阿修羅城は成功を約束された作品ではあるけれど、集大成となる退団公演としてはやはりこれじゃない感が否めない。
トップスターの集大成に求めるのは、バンバンと耳をつんざくような派手な効果音より背中で語る哀愁、ラストソングは録音のハモリを重ねるのではなく情感タップリのアカペラ、そして組子たちを斬りまくるのではなくしっかりとしたセリフのやりとり…
ショー『エスペラント』もそうです。
なぜこうなった?
プログラムを見て思ったのは、なぜ生田先生はトップ退団公演という趣旨よりも場面ごとに ”香り” (プログラム参照)を変えることに執着してしまったのかということ。
星組らしくない淡い衣装のプロローグも、長々とつづくパッションとは真逆の抽象的なシーンも、重厚感ゼロの軽やかなステップの群舞も、礼さんの退団公演じゃなければ目新しくて楽しめたと思います。
がしかし何が問題って、礼さんの退団公演ということで気合が入りまくっている星組生たちがしどころがなさそうで…。せめて群舞くらい踊っていて気持ちが込められる正統派な振付にしてあげてほしかったな。
礼さんと初舞台生とのタップにはグッときましたが、組子との絡みは「あれ?組子が礼さんの背中を押すの?逆じゃない?」と戸惑うばかり。
とまぁ6年もトップを務めたレジェンドの退団作としてはあっさりしていて肩透かしではありましたが、とはいえ礼さんの磨き上げられた男役芸を見ているだけで感動しますし、星組生の心がひとつにまとまっているステキな公演であることはたしかです。
千秋楽まであと一週間。
いましか見られない礼さん率いる星組の舞台を1公演1公演大切に観劇したいと思います。