『海辺のストルーエンセ』感想・朝美絢の魅力

海辺のストルーエンセ 雪組

朝美絢さん主演・雪組『海辺のストルーエンセ』

チケット争奪戦に敗れ、配信もタイミングが合わず諦めていたのですが、ご縁をいただき観劇することができました。

雪組『海辺のストルーエンセ』感想

指田珠子先生の世界感

指田先生は『冬霞の巴里』という衝撃作を生み出した劇団期待の若手演出家。

湿度をおびた独特の世界観とロックの音楽が融合したエッジの効いた作風は刺さる人には刺さる。

フェアリー系の聖乃あすかさんを真逆の方向へ転身させたり、生徒の魅力を引き出すのがうまい演出家だと思います。

先生が生み出す尖った世界観が好きなので、

『海辺のストルーエンセ』も医師と王と王妃の三角関係がドロドロしたものになると期待していたのですが…

あらら、純愛&友情物語のようになって肩透かし。

史実をもとにしていることもあり、ストーリーも無難にまとめた印象です。

ですが将来大劇場デビューを視野にいれるなら『刺さる人には刺さる』ではなく『無難』というやり方は間違いではないとおもいます。

聖乃さんほどの破壊力はないものの、この作品でも生徒たちの新たな魅力を引き出そうと、それぞれ素の性格とは違う役やセリフを当てているのも先生らしいなと。

たとえば
なんでも素直におしゃべりする縣さんには『本音を言えない王』を。
根っから陽気な愛さんには『笑わない王太后』を。
絶対に嫌味なんて言わなそうな麻花さんに『皮肉めいたセリフ』を。

みなさん本来の自分とは違ったキャラの役を上手く演じていました。

朝美絢を愛しすぎた指田先生

主演の朝美さんに対して指田先生の愛がすごいのなんの!!

ゆえに『朝美絢』と『ストルーエンセ』の比重に苦戦したような印象をうけました。

というのも朝美さんのように顔の良いスターは、

男役であっても妖精や魔法使いなど『人間ではないもの』を演じさせられることや、『ビジュアルを売り』にした役が多いのですが、

そこからの脱却を狙いたかったのでしょう。

プログラムに先生の一文がこうあります。

「朝美絢は地に足のついたお芝居をする人だから正しいこともそうでないこともやらせたくなる」

ビジュアル面に注目されがちな朝美さんに『人間臭い役』を与えたかったのだと思いますし、その方向は大正解。

『蒼穹の昴』は朝美さんの役者としての才能が開花した見応えある作品でしたが、男役として観たかった役かと言われれば…

それに比べ『海辺のストルーエンセ』は、ファンが観たかった『男役朝美絢』がつまった満足度の高い作品であることは確かです。

ただ、朝美さんのいろんな表情を見せたいがために、役(ストルーエンセ)自体の書き込みが浅いと感じるところがあったのは惜しい。

とくに冒頭のマジメで一生懸命な医師の部分から色恋を得意とするチャラい医師への変貌は唐突で、しばらく違和感が消えませんでした。

このシーンは王妃と過去を語り合うときに回想として入れてもよかったのかなと。

大劇場デビューに期待

芸人たちが着ていたゴシックロリータの衣装や、時代としては違和感のあるダンスミュージックが、物語のスパイスとして良い効果を発揮していました。

衣装や音楽の違和感を味方につけられるところや、

「買ったドレスは覚えているけど領収書は覚えていないわ」のように、劇中に散りばめられるセリフもオシャレですし、

こういう新しい感性が指田先生の魅力だなと。

ラストシーンの演出も、死者が生き返るという安易な手法に走ることなく、海辺で魂が漂うようなラストに仕上げたことはアッパレ!!

派手になりすぎないフィナーレも良かったと思います。

大劇場デビューの成功を予感させる前作品に仕上がったのではないでしょうか。

下級生時代を思い出す朝美絢

指田先生の要望にもファンの期待にも見事にこたえ、この公演が代表作のひとつとなった朝美さん。

本編の余韻がただようカテコ
「以上をもちまして…」という言葉でご挨拶がはじまりました。

「以上をもちまして医師ストルーエンセの診察は滞りなく終了いたしました。この公演も残すところあと1日となりましたが、最後まで全身全霊で皆さまを治療して参りたいと思います。お気をつけてお帰りください。本日はありがとうございました」

マジメにお話しながらもどこかソワソワして自然と笑みがこぼれている朝美さん。

縣さんもはち切れんばかりの笑顔で客席をみつめ、愛さんもぴょんぴょん跳ねて嬉しそう。

朝美さんたちがニコニコ手をふる先には元月組トップ龍真咲さん元月組組長憧花ゆりのさんの姿がありました。

下級生時代にもどったような屈託のない笑顔で、緞帳が下がりきるまで上級生にアピールし続ける朝美さんがとっても可愛かったです。

本日の千秋楽も良い舞台になりますように。

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