花組「巡礼の年/Fashionable Empire」
観劇しました。(SS席センター)
この記事では「巡礼の年」において
脚本には描かれていない部分を、ていねいな演技で埋める柚香さんと星風さんに注目して感想を記したいと思います。
ネタバレと脚本演出について少し辛口表現ありますので、読み進めご留意ください。
柚香光と星風まどか・花組「巡礼の年」感想
この作品は「自己とは、自分とは。そして、自分らしく生きるとは何か? を問いかけるミュージカル作品」だそう。
生田先生の作品解説を読んで、
あらら?もしかして精神的なお話しになるの?
と予想された方も多いのではないでしょうか。
その予想、当たっています!
全体の雰囲気でじんわり感動はするのですが、
肝心なところがボヤ~ッとして、
解釈がゆだねられているように感じました。
「巡礼の年」冒頭、超簡単あらすじ
自分をバカにした人を見返したいリスト(柚香)は成功を誓う。
そしてパトロンの力を借り大成功をおさめます。
しかし成功に虚しさを感じるようになったリストは自暴自棄に。
そんなとき自分の本心を見透かすような音楽評を書いたマリー(星風)に運命を感じ…
マリーもまた、愛のない結婚生活に耐えかねていた。
駆け落ち
リストとマリーの距離がどんなふうに縮まっていくのかワクワクするでしょ?
わたしも期待しました。
ですが二人は出会ったその日にあっさりと駆け落ち。
そんな~。唐突すぎませんか。
しかしそこをしっかり芝居で埋めるのが柚香さんと星風さんのスゴイところ。
リストが出会ったばかりのマリーに生きる意味を問い、マリーも抑圧されながら生きるリストに自分の境遇を重ねる。
短いシーンながら、柚香さんと星風さんが少しの言葉を交わしただけで二人の魂が共鳴しているのが伝わってきました。
追いかけっこ
柚香さんと星風さんの演技力に頼り、二人の心が縮まる大事なシーンを早送りしてまで先生が見せたかったのは…
「うたかたの恋」を彷彿とさせる追いかけっこシーンでしょうか。
たしかに長い尺をとるだけあって
柚香さんと星風さんのイチャイチャ好きにはたまらないサービスシーンです。
先生の狙いどおり、それはそれはトキメキます。
真っ白のドレスごと柚香さんの腕の中にすっぽり収まる星風さんの愛らしいこと。
爺やと呼ばれて「きみが姫なら僕は王子様じゃないのか?」とスネる柚香さんの可愛いこと。
ぜひニヤニヤしながらご覧ください。
別れ
このラブラブが長く続けばいいのですが、
リストがさらなる名誉をもとめハンガリーへ旅立ち二人の関係にヒビが入ります。
二人で穏やかに生きたいと願うマリーと、名誉に固執するリスト。
病的なほど名誉にこだわるリストを全身全霊で演じる柚香さんに苦しくなりました。
勲章をいっぱい服に付けて帰ってきたリストを冷ややかな目で見るマリー。
星風さんはリストがいない間に生きる道を見つけて強くなっていくマリーを繊細に演じていていました。
体だけでなく、心の距離もはなれてしまった二人がとっても切ない。
柚香さんと星風さんって、しあわせの絶頂のときはこちらが恥ずかしくなるくらい徹底的にラブラブだし、関係が壊れると徹底して冷ややか。
個々でも素晴らしい役者さんですが、二人が合わさると、とんでもなく役の関係性に深みがでます。
それが、ラスト(再会)のシーン。
再会
別れて数年が経ったある日
マリーはリストを訪ねます。
(例によって、別れてから再会するまでの歳月はバッサリ脚本カットなのが残念)
かつて愛し合った二人の再会シーンがどんなのかドキドキしますよね。
こどもたちに音楽を教えるリスト。
柚香さんの穏やかな表情から描かれていないリストの人生が感じられるのがスゴイ。
それぞれいろんなことを経験し、歳を重たリストとマリー。
そんな二人が再会した途端、かつての初々しさを滲ませるの最高にステキ。
「どうしてあの頃はあんなに無邪気でいられたのかしら」
と言う星風さんが少女のようで、柚香さん(リスト)がまた恋に落ちちゃいそう。
ですが決定的な何かは起こりません。
ただ二人のその後を想像させて幕。
柚香さんと星風さんの目線の使いかたが秀逸で、余韻があとをひきます。
リストとマリーの関係だけにとどまらず、
この作品では描かれていない部分が多く
隙間を埋める作業が大変だったと思います。
その上、途中で突然始まる精神世界の見せ方がとくに難しい。
ですがそこは柚香さんや星風さん率いる花組。
さすがの演技力と深い解釈でうまくまとめていました。
そしてこれから公演回数を重ねるたびに
さらに深まっていくでしょう。
次回観劇ではもう一つの魅力的な関係性、
リストに影響を与えたショパン(水美)とサンド(永久輝)にも注目したいと思います。