いまや世界のエンタメリーダーとなった韓国が、ミュージカルの市場を日本に拡大すべく、この夏から来年にかけて順次5作品のミュージカル作品を映画館で上演。
その第一弾が『エリザベート』ということで さっそく観にいってました。
韓国版『エリザベート』感想
オク・ジュヒョン圧巻のシシィ
感想はというと、「なにもかもが素晴らしかった!」の一言に尽きます。
盆が回りまくる大掛かりなセット、豪華な衣装、効果的な映像、重厚なオーケストラなど全てが超一流で、これぞ総合芸術の最高峰。
当然のことながらキャストはみんなモンスター級に歌が上手い。
シシィは望海風斗さんや柚希礼音さんが尊敬してやまない韓国を代表するミュージカル女優オク・ジュヒョンさん。わたしも昨年韓国で彼女のオスカル(『ベルサイユのばら』)を観たときからファンです。
『私だけに』のような大ナンバーを歌い上げてもまだ有り余るパワー、少女時代から晩年まで一貫した凄まじい芝居力、そしてなによりグランドミュージカルの主役にふさわしい存在感。圧倒されました。
さすが韓国版!人間ドラマが濃い
韓国版の何が好きってシシィが強いのが良いんですよね。
シシィはゾフィに屈しないし、ヴィンティッシュ嬢にも同情しない。最後までフランツを許さないし、ラストもトート(死や愛)を受け入れて旅立つという解釈でもない。
悩み葛藤する宝塚版とは違い、早々にフランツを見限り、トートにも翻弄されることなく貪欲に自由を求めるシシィ。ナンバーをやたらとクルクル回りながら歌うのに違和感がありましたが、それも「わたしは自由に生きる」という意志の表れなんですね。
ルドルフに助けを求められたときでも「私はもう開放されたから関わりたくないの」と、まぁ冷たい。
ここでルドルフが歌う『僕はママの鏡だから』は宝塚版とは別物で、「僕がママの鏡だったらママは僕の目をみて僕の気持ちを分かってくれたのに」という歌詞が切なくて泣きました。
【小声】人間ドラマが濃いのも韓国らしくて見応えがあったけれど、生々しくてギョッとしたのはフランツの浮気相手(マデレーネ)がシシィと容姿がそっくりだったということと、シシィが倒れたのはダイエットではなくフランツからうつされた性病が原因だったということが東宝版よりストレートに表現されていたこと。これは宝塚ではできませんね。
フランツの比重も大きく、彼の弱々しい部分だけでなく、ルドルフへの高圧的な叱責だったり、(宝塚版ではないシーンで)ゾフィに向かって「シシィを選ぶ」と言い返したり、何年経ってもシシィの心を理解できない残念なところとか、いろんな面が描かれているのが良かったです。
存在感の無いトート
とまぁ1本のミュージカルで長編ドラマを見たくらいの満足感があったわけですけど、人間関係が濃く描かれているゆえ、人間ではないトートが一番影が薄いという…
トートが主役の宝塚版を見慣れている我々としては、どうしてもこの点に違和感をおぼえてしまうんですよね。
もちろんトートを演じたイ・ヘジュン氏はステキでしたよ。透明感のある歌声と180センチ超えの抜群のスタイル、短髪のトートありかも!と思わせられる納得のカッコ良さ。
大活躍だったのがルキーニ。
軽妙でつかみどころがなくて気持ち悪くて、だけど目が離せない魅力があって…。歌のうまさはもちろん、舞台の掌握力が突出していて、この作品が『ルキーニの狂言による物語』だという説得力よ!
度肝を抜かれたのは、天界へと旅立つトートとシシィの前でルキーニが首をつるというラストシーン。スター制度がある宝塚では不可能な演出ですが、この物語がルキーニありきで成立することを示していて唸りました。このときのルキーニの表情が完全にイッててヤバいのよ。
そしてカーテンコールまで歌いまくる韓国ミュのサービス精神に脱帽です。
最後まで引き込まれっぱなしの3時間。(休憩が7分という中途半端な時間なのはなぜ?せめて15分はほしいところ)
これだけクオリティの高い舞台が字幕付き3500円で見られるなんて良い時代になりましたね。
第二弾の『ファントム』も楽しみです。