演目が発表された瞬間から劇団内外で大きな波紋を呼び、さまざまな意見が飛び交った月組『NINE』。前楽を配信で観ました。
賛否両論・月組『NINE』感想
演出家による私が選んだ作品ではない的な前置き、公演がはじまってからも賛否両論真っ二つ、さらに本編以上にフィナーレが絶賛される作品も珍しいと興味津々で配信を観たところ、正直に打ち明けると、作品全体のトーンとしては私自身に強く刺さるものではありませんでした。
内容が内容だけに、家族で観るには気まずさもありましたしね。
がしかし、配信を観終えてからも、ずっと登場人物たちのことが頭から離れなくて…。これが『NINE』という作品の中毒性なのでしょうか。
鳳月杏の集大成
皆さんが満場一致で絶賛されているとおり、鳳月杏さん素晴らしかったですね。
栄華と失墜の映画監督であり、精神崩壊寸前の中年男性を、可愛らしさと冷ややかな軽蔑、そして漂う憐れみを絶妙に混ぜ合わせて体現していました。難しい歌も台詞のように自然。長年培ってきた圧倒的な経験値と研鑽の賜物であるこの難役は、まさに集大成。
本音を言うと、大人の色気したたる『The・二枚目!(スパダリ系)』が見たかったけれど、この複雑な人物を鳳月さんに演じさせたくなるのも納得でした。
妻役の天紫珠李さんは、立ち姿、目線だけで怒りや冷徹な軽蔑、そしてわずかな希望に身を委ねる切なさを表現してみせ、お見事!
その他キャスト
周囲を固めるキャスト陣も実に緻密な演技で舞台を支えていました。
大女優役を演じた礼華はるさん、落ち着いた佇まいとゆったりとした所作で、前にも後ろにも進めない女性の悲哀を滲ませ、この前まで「赤兎馬っ!」と息巻いていた人とは思えない変貌ぶり!幅広い表現力に脱帽です。ファルセットも綺麗でしたね。
母親役の夢奈瑠音さんは、そこに居るのに居ないような異質な存在。生身の演技でありながら1枚ベールを纏ったかのような不思議な疎外感が出せるの本当にスゴい。
今作は宝塚の舞台としては珍しく、たくさんの娘役に見せ場が用意され、その熱演が称賛されていた点は非常に喜ばしいことです。
しかし、どうしても手放しで喜べない大きな問いが残ります。
タカラジェンヌに背負わせる役
というのも、今回問題となった、9歳の幼い男の子に対する性的暴行を匂わせる娼婦という設定。
いや、もう、なかなかの人物ですし、センセーショナルな場面ですよね。
それを映像でもシルエットでもなく、娘役さんが体当たりで演じたわけですが、そこは演技力に定評のある彼女。品を保ちながらも作品の求める役割を全うし、主人公が「この人だけが自分の理解者だ」と錯覚するほどの説得力をもった人物像を作り上げていて、それはそれは素晴らしかったです。その巧みさとプロ意識に感動、心からの賛辞を贈ります。
だけどね、「タカラジェンヌにここまでの役を背負わせるべきなのか」という葛藤は拭えません。
宝塚で問題作上演にひと言
鳳月さんのプレさよならに、コンサートではなく、一本の濃厚な芝居は正解だったと思います。
そして、この難解で攻めた演目を宝塚の枠組みへとすり合わせた演出の指田先生の手腕にも、果敢に挑み切った月組生の底力にも大拍手!
ただ、別箱とはいえ、この評価の高さを理由に同系統の作品が量産されてしまうのはちょっと…。こうした問題作の投入は数年に一度のスパイス程度にとどめてほしいと切に願います。