柚香光さんと星風まどかさんの退団公演『アルカンシェル』観てきました。
むかしから「トップ退団公演に名作なし」なんて言われていて、初日の評価も賛否両論。
大丈夫?と、恐る恐るの観劇でしたが、とっても楽しかったです。
以下、ネタバレありで感想を記しますので読み進めご留意ください。思いが溢れて長文です。
最後にこんな柚香光が観たかった
トップスターのさよなら公演として最高
最初に言いますね。『アルカンシェル』は近年稀に見るベタベタなラブストーリーです。しかもトップコンビだけでなく次期トップコンビまでも。
もちろんちゃんとした筋書きはありますよ。
ドイツ軍の占領下において、上演する演目すら自分たちで決められないアルカンシエルの劇団員たちは、表ではドイツ軍の指示に従いクラシックをやり、裏ではジャズの練習を行い発表の時を待っていた。しかし裏切り者の密告により計画はおじゃん。柚香さんら責任者は連行され劇場は封鎖。ついにパリ市民は自由と劇場を守るために立ち上がる…という史実に基づくドラマが。
だけど深堀りされることはなく、実にあっさり。悪者もあっけなく成敗されるので安心して見られますが、恋愛のスパイスに史実を使うには時代が時代だけに、もう少し配慮が必要な気がしました。
とはいえ、この作品には満足しています。
それは小池先生ならではの1幕ラストのワクワク感と、華やかなレビューシーン。花組の厚みのあるコーラスだけでなく、
『最後に柚香光のこんな男役を観たい』というファンの欲求を全て満たしてくれたからだと思います。
ジャズ、ラテン、ワルツを含むダンスシーン、ピアノの生演奏、パントマイム、タキシードやトレンチコート&ハットといったザ・男役の衣装姿、男同士の友情、苦悩する姿、拷問シーンや銃を構えるサービスショットまで。そして何といっても甘い言葉とトキメキのラブシーン、娘役はべらし、郡舞、デュエダン、リフト、大羽根…
これぜ~んぶ見られるんですよ。トップスターの退団公演として最高でしょ!大満足です。
個人的に一番好きな柚香さんのシーンは、外出禁止時間が迫り慌てて楽屋を後にするシーンです。ロングコートを羽織ってハットをかぶる一連の仕草のカッコいいこと。薄暗いライトの中、わずか10秒にも満たない短いシーンだけど、柚香さんの男役の美学がつまった超絶カッコいいシーンなのでお見逃しなく!
2組のカップル
星風さんに歌姫をやらせたのも大正解。オペラの歌唱があまりにもみごとで、つくづく彼女のエリザベートやクリスティーヌが観たかったな~なんて。その美しい声ゆえ輝月ゆうまさんに好かれて大変な目に遭うのですが、先生、お酒に睡眠薬を入れていやらしいことをしようとする悪役も、ヒロインを助けるために部屋に突入する主人公も、ベタ過ぎません?そのあとミイラ取りがミイラになる展開も(「仕事仲間とは恋はしない」ってどの口が!笑)。責任感が強く自立したヒロインは好感がもてますし、まさかのアドリブ担当!ダンスも歌も多くてドレスも豪華。トップ娘役の集大成にふさわしい良い役だと思います。そしてやっぱり『れいまど』はステキ。
いい意味で裏切られたのが永久輝せあさんでした。ドイツ側の人間なので敵かと思ったら、エンタメを愛する純粋青年だったという。自分が不利な状況に陥っても仲間を助けるとんでもなく良いヤツ。そんな不器用な男の恋愛がまたいいんです。「何もしない」と言いながら勢いでキスしておいて「パリジャンはもっとキスが上手なんだろうな」って自虐気味になったりして、めんどくさ可愛い。笑。それにしてもまた歌がうまくなりましたね。次期トップが決まり覚悟のようなものを感じました。歌唱指導も堂々とした歌いっぷり、ピンクの衣装が豪華でした。
星空美咲さんはドイツに行くことになった星風さんの代役を務めるという重要な役どころ。劇中もエトワールも美声を轟かせていて『ひばり(歌のうまい可愛い子)』を体現。年上の男性を手のひらで転がすような魔性感と年相応の乙女感が混在して魅力的でした。永久輝さんとの相性も良く、次期トップ娘役としての顔見世大成功。
その他キャスト感想
いちばんの功労者はストーリーテラーの聖乃あすかさん。『エリザベート』のルキーニ以上に登場回数も多く説明セリフも長い。正直、ここまで説明する必要ある?先生、もう少し客を信用して!と思わなくもない量ですが、次期2番手の洗礼ですね。誰とも絡まず一人で舞台の空気を動かすのは大きな挑戦!声は良い。課題は滑舌かな。なんせ華やでスターオーラ全開の人なので、語り部だけど目立つ目立つ。劇中であまり踊らないのでフィナーレで誰よりも張り切っているのが微笑ましい。
MVPは悪役を一手に引き受けた輝月ゆうまさん。男尊女卑で野心家のドイツ人将校をこれ以上ないくらい憎々しく演じ、作品に厚みをもたせていて素晴らしかったです。
キーパーソンとなるのが劇団員でありながらマルセル(柚香)への嫉妬から敵に寝返った綺城ひか理さん。出番は多くないものの、最後のアッと驚く行動に至るまでの心の動きをキチンと見せてさすがだなと。星風さんの衣装が階段に引っかかったときにサッと駆け寄ってジェントルでした。
本作で退団となる帆純まひろさんは練習熱心で仲間思いな劇団員を好演。「一緒に舞台を作り上げてきた仲間じゃないか」と本人とリンクするセリフを柚香さんからかけられるシーンがあってグッときました。
目を引いたのは子役の小春ひめ花さん(106期)。専科の一樹千尋さん相手に堂々と芝居し、アカペラもアコーディオン演奏も上手にやってのけスゴかったです。
正直感想
少しだけ正直な感想を。
役が少なく大半の組子がモブなのは残念。ベタなラブストーリーは10年以上前のスタイルですし、小池先生の乙女心全開といったセリフが満載なので(スキャンダル直後ゆえ)引いてしまう人もがいるかもしれません。
虹が効果的かと言われれば疑問ですし、フィナーレの振付がガチャガチャしていて花組に合っていない気が…
とはいえ、作品のテーマである『たゆたえども沈まず』は心に残り、ショーのシーンが多いのに芝居の流れがスムーズなのは、さすが小池先生&花組!
そして何より『柚香光&星風まどかの集大成』にふさわしい良作であることは確かです。
これで東西完走できたら最高ですね。みんな元気に千秋楽まで駆け抜けられますように。
長文、最後までお読みくださりありがとうございました。