本日、バウホールで上演中の星組公演『銀二貫』を観劇してまいりました。
かつて父を亡くした武家の息子が、ある商人に銀二貫で命を救われたことをきっかけに、寒天問屋の丁稚として生きる道を選び、成長していく物語。初恋の人・真帆との切ない恋模様もみどころ。
誰も悪い人が出てこない、清廉でいじらしく、そして心底温かい。物語が進むにつれ会場のあちこちからすすり泣きが聞こえ、私自身もホロリ。「やっぱり日本物はいいな!」と実感する良い舞台でした。
稀惺かずと&乙華菜乃 感想
本作がバウ初主演となる稀惺かずとさん。幼くして天涯孤独になりながらも、「生き続けろ!」という父の遺言を守り、ひたむきに生きる少年~青年を見事に演じきりました。
登場から堂々と大ナンバーを歌い上げる姿には説得力があって、やはり底しれぬ実力の持ち主なんだなと。
とくに素晴らしかったのは初主演という力みがまったくなかったこと。感情を出しすぎることなく静かな光を放ち続け、物語の核として舞台に在り続ける。『受けの芝居』でも内に秘めた葛藤を上品に表現するのは上級生でも難しいでしょうに、ほんと素晴らしかった。
それゆえ、幼い頃から抑えに抑えてきた真帆への思いをついに「いとしーて、いとしーて(愛おしくて)」と爆発させるシーンはもうたまらんかったです!!松吉の清らかな初恋が成就する瞬間、涙でぐちゃぐちゃになりました。
それにしてもお育ちの良さは魅力ですね。丁稚でありながら随所に武家の子として生まれた気品が滲み出ているのは稀惺さんだからこそ。彼女と役が重なる瞬間が何度もありました。
ヒロインの真帆&おてつの2役演じた乙華菜乃さんの抜群の芝居センスにも舌を巻きました。
1幕の天真爛漫な少女もさることながら、2幕の火事で顔に大火傷を負いながらも凛として生きるおてつ(真帆)の芝居が秀逸。辛い過去を涙ながらに語るシーンでもきっちりセリフを聞かせる技術にも感嘆しましたし、歌も上手い!
稀惺さんとの並びもお似合いで、お二人の初々しい空気感がこの作品の清らかさを何倍にも引き立てていたように思います。
その他キャスト感想
この作品のMVPは、間違いなく和助役の汝鳥伶さんでしょう。器の大きさと滋味深い演技が舞台全体に大黒柱のような安心感をもたらし、番頭役の輝咲玲央さんとの掛け合いはまさに『人情喜劇』の真髄。絶妙なオーバーアクトと安定した演技で、笑わせ、泣かせる。さすがの一言でした。
ヒロインの父親を演じた朝水りょうさんは慈愛の塊。『恋する天動説』でもそうでしたけど、若者に『気づき』を与える役をやらせたら天下一品ですね。
他にも、主人公の父と寒天職人の2役を演じた碧海さりおさんの確かな芝居も、おてつの母として、この物語の悲劇の象徴でありながら『救い』を表現した瞳きらりさんも素晴らしかったです。
一方、丁稚役の凰陽さや華さん、馳琉輝さん、女中の藍羽ひよりさんなど、星組らしい若手の元気な芝居が物語にメリハリを効かせていて楽しかった。
あとは、お市を演じた星奈蘭さん(109期)がちゅるんと可愛らしくて、馳琉輝さん演じる梅吉とのサブカップルにキュンとしました。桃李拍さんの祭の歌も良かったですね。
ほっこり!カテコでの可愛らしいハプニング
そして感動の幕が下りた後のカーテンコールでは、思わず笑みがこぼれる一幕も。
稀惺さんが「ご観劇ありがとうございました。この公演も残すところあと2回となってしまいました」と挨拶した瞬間、客席が「えっ?」とフリーズ。
するとすかさず舞台上の星組生たちが人差し指を立てて「あと1回」と全力でアピール!
その光景に気づいた稀惺さんが『あぁっ、間違えちゃった』というような愛らしい表情を浮かべ、会場からは温かい笑いと拍手が。
仕切り直して「残りあと1回となりましたが、配信もありますのでご視聴よろしくお願いします」と自然な流れで宣伝にもっていったもんだから客席爆笑!さすが『出来る子』です。
2015年の初演から時を経て、鈴木先生やスタッフ陣の誠実な仕事によって蘇った名作『銀二貫』。
谷先生が遺されたこの作品の温かみが、今の星組にもしっかりと受け継がれ、新しい感性を持った生徒たちによってさらに進化していることに胸が熱くなりました。
もちろん、明日の配信も食い入るように観たいと思います。